看護の現場では、日々の業務の中で倫理的な判断が求められる場面が少なくありません。今回は、ドイツの哲学者カントが提唱した「悪」の概念を通して、看護師がどのようにして正しい行動を選び、倫理的なケアを提供すべきかを考えてみましょう。
カントの「悪」とは?
カントは、人間が持つ「悪」の傾向を認めた上で、理性を使ってそれを克服することの重要性を説いています。彼は、悪を三つのタイプに分類しました。
弱さによる悪
- 説明: 道徳的に正しいと分かっていても、誘惑や感情に負けてしまうこと。
- 例: 夜勤で疲れているとき、患者さんがナースコールを押してもすぐに対応せず、「後で行こう」と思ってしまう。この場合、疲れに負けてしまう「弱さ」が働いています。
不純な動機による悪
- 説明: 表面的には正しい行動をしているように見えるが、それが純粋な善意からではなく、自分の利益のために行われている場合。
- 例: 上司が見ているときだけ、患者さんに対して丁寧に接する。しかし、上司がいなくなると適当に対応してしまう。これは、患者さんのためではなく、自己評価を気にして行動する「不純な動機」です。
悪意による悪
- 説明: 意図的に道徳的な義務を無視し、悪い行動を選ぶこと。
- 例: 患者さんが質問してきたのに、「今忙しいから後で」と言って、実際には対応しない。これは意図的に患者さんを無視しているため、「悪意による悪」に該当します。
看護師が「悪」に対抗するためには
カントは、人間が持つ「悪」の傾向を認めつつも、それに対抗するためには理性を使い、「善なる意志」を持つことが重要だと考えました。つまり、自分の欲望や感情に流されるのではなく、「自分が本当に正しいと思うことをする」という意志を持つことが求められます。
看護師として、患者さんに対してどのように接するべきかを考える際、このカントの教えは非常に有益です。たとえば、忙しいときやストレスがたまっているときでも、患者さんに対して親切で思いやりのある対応をするように心がけることが、「善なる意志」に基づいた行動です。
日々の業務での具体的な実践
カントの「悪」の概念を理解した上で、日々の業務でどのように実践するかを考えてみましょう。
- 自己の弱さを認識する: 夜勤やストレスの多い状況でも、患者さんに対して誠実な対応をすることを心がけましょう。疲れているときこそ、冷静に自分の行動を見直すことが大切です。
- 純粋な動機を持つ: 患者さんの利益を最優先に考え、誰が見ていようといまいと、一貫して丁寧なケアを提供することを意識しましょう。自己評価や他人の目を気にするのではなく、患者さんのために行動することが求められます。
- 悪意を排除する: 患者さんに対して意図的に悪意ある行動を取らないようにすることは当然ですが、忙しさやストレスを理由に冷たい対応をしないように気をつけましょう。どんな状況でも、患者さんの立場に立って考えることが重要です。
まとめ
カントの「悪」の概念は、看護師としての倫理的な判断を支える強力な指針となります。日々の業務の中で、自分がどのように行動すべきかを考える際、この哲学的な考え方が助けになるでしょう。患者さんに対して常に誠実であるために、自分の「善なる意志」を信じ、実践し続けることが求められます。これにより、看護師としての使命を全うし、患者さんに最善のケアを提供できるようになるでしょう。
このカントの教えを日常の業務に取り入れることで、より高い倫理基準を持った看護師を目指しましょう。